技術セミナー・研修・出版・書籍・通信教育・eラーニング・講師派遣の テックセミナー ジェーピー
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リン資源枯渇の危機が忍び寄っている。リンがなくなれば食糧はもとより、再生可能資源と喧伝されるバイオマスも、低炭素型社会への貢献が期待されるバイオ燃料も生産できなくなる。リンはまた、わが国の先端産業においても重要な役割を果たしている。例えば、自動車車体など高度な防錆性が要求される鋼板表面の塗装下地には、リン酸亜鉛処理液が広く使われている。液晶製造工程においても、アルミ配線パターンの作成のために、濃厚なリン酸液がエッチング剤として使われている。リン資源の枯渇は、半導体や液晶、金属表面加工、医薬品や発酵食品など広範な工業分野においても、深刻な影響を及ぼしかねない。
リン資源枯渇の危機に対処するためには、国内で使用したリンを回収・再利用する技術を開発するとともに、未利用リン資源の探索や回収・再利用のコストについても、余裕のあるうちに十分な検討をしておく必要がある。リン資源の回収・再利用を事業として成り立たせるためには、回収リンの品質を良くして再利用価値を高めるとともに、リン回収がもたらす副次的効果をうまく利用することが重要である。例えば、リン回収を行えば湖沼や内湾の富栄養化の防止に貢献できる。下水処理場では、リン回収により配管の閉塞障害や汚泥焼却炉の損傷などが低減され、回収技術によっては汚泥減容化の効果も期待できる。静脈産業への波及効果はとくに重要である。セメント製造プロセスでは、可燃性廃棄物である有機汚泥をセメント原料の一部として受け入れている。しかし、リンを多く含んだセメントは固まりにくく、コンクリート建造物の強度を低下させる。セメント業界が、リンを含んだ有機汚泥の受け入れをストップすれば、わが国の静脈産業は回らなくなる。
本書は、迫りくるリン資源の枯渇の危機に立ち向かうために、リン資源の回収と再利用技術を巡る最新の動向を取り纏めたものである。リン資源の回収・再利用のコストを、先端産業に加えて静脈産業や環境ビジネスをも含めた枠組みの中でとらえようとするわが国の取組みは、間違いなく世界に先行している。そのアイデア豊かで迫力のある取組みを目の当たりにしていると、この分野もまた日本が世界に貢献できる重要な環境産業の一つに発展するのではないかとの思いを強くする。本書の出版が、わが国において世界に先駆けたリン資源リサイクルシステムを確立するための一助となれば幸いである。
2009年11月 大竹久夫 (「はじめに」より)
大阪大学
教授
大竹 久夫